遺言書の「付言事項」とは?

「親父の遺言書に、『お母さんをどうか兄弟で大事にしてあげてください』って書いてあったんだよ。それまで兄貴とは会うたびに言い合いばっかりだったんだけど、それからは殆どなくなったんだよな」
そんなエピソードを相続の相談中に伺ったことがあります。
これは、遺言書の中の「付言事項(ふげんじこう)」という部分です。
遺言書の本文では、財産の具体的な分け方などを指定したりします。
「自宅を○○へ相続させる」などです。
「付言事項」とはそれ以外の部分で、家族への想いや、お願い、伝えたいメッセージを書けるものです。
今回は、遺言書の中でもちょっと「心」の通うこの部分について、ご紹介します。
遺言書の「付言事項」って何?
遺言書の内容には、2つの要素があります。
法的な効力を持つ「本文(ほんぶん)」と、効力はないけど書いた人の気持ちを伝えられる「付言事項」です。
この「付言事項」とは、「付け加えて言うこと」です。手紙だと追記 (P.S.)の部分でしょうか。
家族へのメッセージや、なぜそのような遺産分割にしたのか、これまでの感謝やこれからの希望を記しておく場所です。
たとえば、「長男に多く渡す理由」や「(世話・介護をしてくれた)特定の人への感謝」、「家族への励ましの言葉」などがそれにあたります。
法的効力はありませんが、相続人が遺言を理解し、納得しやすくなる効果があります。
本文で書けること・書けないこと、付言事項で補えること
遺言書は、故人の遺志を表明して実現するための、法律的な文書です。
民法で法的効力が発生する事柄(要件)が決められており、それ以外のことや要件に満たない場合は法的効力はありません。
「付言事項」とは、その法的効力にない部分のことです。ただし、法的効力がなくても、読む人にとって意味のあるものなのです。
◇遺言書本文で指定できる主な内容(法的効力あり)
- 誰に、何を、どれだけ相続させるか(遺産の分配)
- 相続人以外への遺贈(いぞう)
- 遺言執行者の指定
- 認知(非嫡出子の父と認める)
- 相続分の廃除・取消し
◇付言事項で伝えられること(法的効力はなし)
- 遺産分割の理由の説明
- 家族への感謝の言葉
- 将来に向けた願い・お願い
- 供養やお墓のことに関する希望
- 生前の謝罪や和解の気持ち
付言事項の一例
一、(付言事項)
長男には、長年家業を支えてくれて感謝しています。会社の後継として、私名義の財産の内、会社の運営に必要な財産を託します。数々厳しく当たりましたが、会社の代表として立派になってほしいという気持ちでした。会社のことをゆめゆめ頼みます。
次男と三女には、あまり多くの財産を分けられず、すまないと思います。長男が会社を引き継ぐことを、どうか理解してもらいたいと思います。どうか遺留分を請求しないようにお願いします。
仕事に追われて、家庭をかえりみることが少なかったことを許してください。どうか今後も皆で仲良く、助け合って暮らしていってください。
本当にみんなありがとう。
※あくまで例です。
付言事項を書くときの注意点
付言事項の書き方に決まりはありませんが、書くときの注意点をいくつか挙げておきます。
事実と感情を分けて書く
読んだ相続人が、誤解を生まないような文章にすること。
たとえば、相続人の誰かに恨みつらみがあっても、直接的な表現はやめておきましょう。
言われた人が怒りや恥辱を感じて、他の人にあたったり拗ねたりして、もめるだけです。
言い換えたり、せめて触れないようする等にしておくべきです。
たとえば、「長女は近くに住んで面倒見てくれたのに、次女は全然帰ってこない、親不孝だ」。
という場合でも、長年帰ってこないこと、怒りや悲しみをそのまま文章にしてはいけません。
「長女は私の世話を長年見てくれて、感謝しています。長女に実家を相続させますが、どうか理解してください。これからも姉妹仲良く、協力し合って暮らしてください。」くらいにしておきましょう。
「あんな遺言書があったばかりに、姉妹げんかになってしまった」となったら、元も子もありません。
相続人全員に理由や配慮を示す
財産を多く残す人と少なくなる人が出た場合など、その分け方の理由を書くこと。
たとえば、妻に家や土地など財産の大部分を相続させる場合や、自営の後継者に運営のための財産を残す場合に、他の子どもにあまり(殆ど)相続分がないケースなどです。
でも、その理由をしっかり書いておけば、他の相続人も納得しやすくなります。
「家族なんだから言わなくてもわかるだろう」、「子供たちもわかってくれているはず」と甘えて、遺言書で何も説明がなかったら、後で兄弟間でトラブルになるかもしれません。
本人が納得していても、気の強い配偶者が口を出す、なんてこともあるかもしれませんし。
また、誰か一人だけに文章が偏らないように注意しましょう。それぞれの方への感情はもちろん違うと思いますが、相続人全員に感謝や思いを伝えるように意識しましょう。
遺留分請求も考慮しておく
財産の分け方とも関係するが、遺留分請求に配慮した文章を入れるかどうか考えること。
同じく、妻や事業の後継者などが、相続財産の多くを相続するような場合で見てみましょう。
この場合、ある人が財産の大部分を相続することになるので、他の人の遺留分(法律で定められた、最低限相続できる財産の割合)を侵害していることもあります。
だいたい、遺言で遺留分を侵害するような財産配分を指定する場合、特定の相続人に感謝したり、今後の生活のため、相続人でない人に特別な思いがあって多く配分しているなどの理由が考えられます。
もし、相続人から遺留分侵害額請求をされると、それらの思いや意図が崩れてしまいかねません。
なので、相続分の理由を書いた後、「遺留分を請求しないように」と書いたほうがいいかもしれません。
ただ、言っておいてなんですが、付言事項で遺留分に触れるかどうかは、相手との関係性や性格を考えないといけない部分も大きいです。これは本当にデリケートです。
「遺留分を請求しないでほしい」と付言事項に書いても、その気持ちを理解してもらえなさそうな人物であれば、あえて伝えなくてよい、むしろ伝えないほうがいいケースもあります。
もしも遺留分について相手が知らないのなら、わざわざ付言事項で触れることもありません。
簡潔に、でも温かく
長すぎると、読む側にも負担になる。感謝の言葉もいれる。
たとえば、本文よりも付言事項がやたら長い遺言書ってどうでしょうか?
本文は1枚なのに、付言が5ページもあったらどうでしょうか。
正直、読む方も大変です。
自分の死後のことや相続人や知人友人などへの感情があふれて、筆が止まらないくらいになることがあるのもわかります。
ですが、それなら遺言書と別に手紙を書いて、遺言書と一緒に保管する等しておきましょう。
自筆証書遺言の場合、家庭裁判所での検認手続きもあります。(保管制度を使うなら無し)
付言事項に書くことは、感謝の言葉を添えつつ、相続に関係することだけ簡潔に、短めにしましょう。
内容を専門家(行政書士や司法書士など)とチェックする
本文も含めて、いろいろ「ズレがないか」をチェックすべき。
遺言書を書くというのは、人生で何回もありません。
「できた、これで30通目の遺言書だ!」なんて人は、書初め感覚で作らない限りはいないでしょう。
たとえば、雑誌の記事の見本の通りに書いても、ご自身の意図と文章がずれていることがあります。
また、本文は正しく書いていても、付言事項で矛盾している場合、『錯誤無効』が疑われることもあります。
遺言書の本文で「口座預金は○○へ寄付する」と書いたのに、付記事項で「口座のお金は姪の○○が使ってほしい」と書いていると、問題になります。
他にも、遺言書作成から亡くなるまでの間が数年~20年も空いてしまって、相続時の現状と遺言の内容が合わなくなっている場合も問題です。
その間に、口座残高が医療費等で無くなったり、相続人予定の方が先に亡くなったりするなどするかもしれません。
いずれの場合も、意図と違う結果になったり、遺言の内容が無効になる可能性も出てきます。
また、付記事項の文章も「自分はこう思って」書いても、文章の解釈次第で読み手に誤解されたりすることもあります。封をする前に、第三者の目でチェックしてもらった方がいいと思います。
できれば、作成時に専門家へ相談して、自分の考えに沿った文章になっているかのチェックや、付記事項含めて、将来の事情の考慮も含めた文案を作成してもらうなどするほうがいいでしょう。自己流で書くよりも格段に、遺言書についてのトラブルが起きる可能性をなくすことができます。
行政書士に相談するメリット
付言事項には決まりはありませんので、自由に書ける部分ではあります。
しかし、トラブルを避けるためには「言葉選び」や「本文とのバランス」といったことがとても大切です。
行政書士にご相談いただければ、次のようなサポートが受けられます。
- あなたの想いを、実現できる言葉にするサポート
- 家族構成や相続人の状況をふまえた文案作成
- 法的に有効な遺言書と付言事項の整合性の確認
- 公正証書遺言の作成サポート(証人や手続きも代行)
「家族が読んだとき、少しでも心が温まる遺言書にしたい」
そんな気持ちに、私たち行政書士はしっかり寄り添います。
まとめ:あなたの「ことば」が、家族の心をつなぐ
財産をどう分けるか、きちんと記載することはもちろん大事です。
ですが、「なぜそう分けたのか」、「どんな想いがあったのか」を伝えることも必要ですし、家族の納得や心の整理に大きく影響します。
遺言書の「付言事項」は、本文を補足するものであり、あなたの想いをきちんと伝えて、その後のトラブルを抑えるための大切な手段です。
ただし、自由に書いていいと思って、何の考えなしにあれこれ書いてしまうと、思わぬトラブルになる可能性もあります。くれぐれも気を付けましょう。
タイヨウ行政書士事務所では、遺言書作成サポート、チェックを行っております。
遺言書の作成で不安になったら、付記事項のことで困ったら、「ちょっと聞いてみるだけ」でも構いません。
お気軽にご相談ください。ご相談は初回無料です。
